財産分与とは、婚姻中に夫婦が協力して形成した財産を、離婚に際して公平に分配するための制度です。
財産分与には資産の移転を伴うため、課税リスクについても知っておく必要があります!
では、離婚による財産分与について税金はかかるのでしょうか?
基本的には税金はかかりません
離婚により相手方から財産をもらった場合、通常は贈与税がかかることはありません。
ちなみに贈与税についてはこちらで説明しています。
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これは、離婚による財産分与は、「相手方から贈与を受けた」と考えるのではなく、「婚姻中に夫婦で築いてきた共有財産を分け合うこと」や「離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき給付を受けたもの」と考えられるからといわれています。
ただし、下記のような場合には贈与税がかかることがあります。
贈与税のかかる財産分与
① 分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多すぎる場合
(※「多すぎる」の基準については、明確なものがあるわけではなく、個々の事例ごとに判断されます。)
② 離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合
財産分与として不動産を受け取った場合
では、財産分与として金銭ではなく不動産を分与した場合にはどうなるでしょう?
不動産を分与した場合、課税のリスクが生じることがあります。
分与を受けた側の税金
不動産を財産分与された場合、次のような税金がかかります。
- 登録免許税
- 固定資産税
- 印紙税
登録免許税とは
登録免許税とは、不動産の名義変更をする際にかかる税金です。
税額は、不動産の固定資産税評価額の2%です。
固定資産税とは・・・
固定資産税とは、不動産などの固定資産を所有している人に課される税金です。
税額は、不動産の課税標準額の1.4%です。
(ただし、住宅用地の場合は、課税標準の特例措置があり、税額が軽減されます。)
印紙税
財産分与契約において、不動産の価格に応じて次の印紙税が課税されます。
不動産の価格 | 印紙税の額(円) |
100万円超 500万円以下 | 1,000 |
500万円超 1,000万円以下 | 5,000 |
1,000万円超 5,000万円以下 | 10,000 |
5,000万円超 1憶円以下 | 30,000 |
1億円超 5憶円以下 | 60,000 |
(※上記印紙税の額は令和4年3月31日までに作成されるものの場合)
不動産取得税はかかりません
不動産取得税については、夫婦の実質的共有財産の清算のための財産分与の場合にはかかりません。
ただし、慰謝料や離婚後の生活保障のための財産分与の場合にはかかる可能性があります。
分与をした側の税金
財産分与が土地や建物などの不動産で行われた場合、分与した側に譲渡所得の課税が行われることになります。
この場合、分与した時の土地や建物などの時価が譲渡所得の収入金額となります。
なぜ無償で不動産の分与をしたにもかかわらず、譲渡所得税がかかるのでしょう?
譲渡所得が生じる理由
下記の裁判例を見てください
裁判例では、次のように判示されています。
最高裁判所 昭和50年5月27日
譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであるから、課税所得たる譲渡所得の発生には、必ずしも当該資産の譲渡が有償であることを要しないのであって、所得税法第33条第1項にいう「資産の譲渡」とは、有償無償を問わず資産を移転させる一切の行為をいうものと解すべきである。
そして、夫婦が離婚したときは、その一方は他方に対し財産分与を請求することができるが、この財産分与の権利義務の内容は当事者の協議等によって具体的に確定され、これに従い不動産の譲渡等が完了すれば、財産分与の義務は消滅し、この分与義務の消滅は、それ自体一の経済的利益ということができ、財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者はこれによって分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきであるから、財産分与としてされた不動産等の譲渡は譲渡所得税の課税の対象となる。
わかるような、わからないような理由ですね・・・
でも、この判例により、譲渡所得が生ずることとなります。
譲渡所得税のマイホーム特例
財産分与として土地や建物などの不動産を譲渡した場合、上記の通り譲渡所得税がかかることがありますが、次の要件を充たせば、譲渡所得から最高3,000万円まで控除することができ、譲渡所得税を軽減することができます。
つまり、譲渡所得は、『不動産の譲渡価額-(不動産の取得費用+譲渡費用)』で計算した金額となるため、この金額が3,000万円以内であれば、譲渡所得金額がゼロとなり、譲渡所得税はかからないということになります。
注意
上記の3,000万円の控除を受けるためには、譲渡所得税の申告を行うことが条件となります。
申告漏れがないように注意してください!
注意 2
「譲渡所得税のマイホーム特例」は、「売手と買手が、親子や夫婦など特別な関係でないこと」が条件となっています。この特例を適用するには、離婚後に財産分与する必要があります。
譲渡所得税の軽減税率
3,000万円の特別控除と併用して「軽減税率の特例」を利用することが可能です。
居住用不動産の所有期間が、財産分与を行う年の1月1日時点で10年を超えている場合は、軽減税率の特例が適応され、所得税や住民税の税率を低く抑えることが可能です。
軽減税率の特例適用後の税率は下記のとおりです。
所有期間 | 譲渡時の価格 | 所得税+復興特別所得税+住民税の税率 |
10年超 | 6,000万円以下の部分 | 14.21% |
6,000万円超の部分 | 20.315% | |
5年超 10年以下 | – | 20.315% |
5年以下 | – | 39.63% |
注意
この特例の適用を受けるためには、譲渡所得税の申告を行うことが条件となります。
確定申告を忘れないようにしてください!
離婚後の新たな住宅ローンについて
ちなみに、離婚に伴う自宅の財産分与に際し、元夫が、上記の譲渡所得税のマイホーム特例(譲渡所得3,000万円の特別控除)や、譲渡所得税の軽減税率を利用した場合、元夫が新たに借入をして自宅を取得等したとしても、入居した年とその前2年・後3年の合計6年間は元夫は住宅ローン控除の適用を受けることができません。
この場合の分与を受けた側の取り扱い
分与を受けた側は、分与を受けた日にその時の時価で土地や建物を取得したことになります。
したがって、将来、分与を受けた土地や建物を売った場合には、財産分与を受けた日を基に、長期譲渡になるか短期譲渡になるかを判定することになります。
不動産による財産分与で贈与税がかかることも・・・
不動産の価値によっては、財産分与としては「不当に高額」とみなされてしまう可能性もあり、その場合には贈与税が課税されてしまいます。
贈与税の配偶者控除
配偶者から不動産を財産分与され、贈与税がかかったとしても、次の要件を満たせば、不動産の価額から基礎控除110万円に加えて、最高2,000万円まで控除することができます。
贈与税の配偶者控除の条件
- 夫婦の婚姻期間が20年以上あること
- 居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
注意 1
上記の2,000万円の控除を受けるためには、贈与税の申告を行うことが条件となります。
申告漏れがないように注意してください!
注意 2
「贈与税の配偶者控除」の制度は、あくまでも配偶者からの贈与の場合に適用されますので、離婚前に譲渡する必要があります。
株式やゴルフ会員権を財産分与した場合
株式やゴルフ会員権など、所得税法上の「資産」となる財産を分与する場合にも「譲渡所得税」が課税されます。
考え方は不動産と同じで、取得時よりも価値が上がった部分のみが課税対象となります。
この場合、マイホーム特例のような譲渡所得税の特例はありません。
金銭でやり取りを行う
財産分与を不動産を代表とする金銭以外で行った場合、譲渡所得税が課税されます。
そのため、節税を考えるなら、不動産などを売却して現金化し、金銭による財産分与を行うことで財産分与に関わる税金を安く抑えることが可能です。
離婚に伴う慰謝料に係る税金
離婚に伴う慰謝料については、精神的損害に対する賠償ですので、金銭によって賠償される場合には原則として税金は課されません。
離婚に伴う養育費に係る税金
子どもの両親間において扶養義務を履行するために給付される金銭に対しては、所得税は課されません。
また、子どもの両親間において教育費にあてるための贈与により取得した財産のうち、通常必要と認められるものには贈与税も課されません。
ただし、将来の養育費についてまで一括して支払いを受けた場合には、贈与税の課税対象となることがあるので注意が必要です。
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